闇夜の事件事件は土曜の深夜12時に発生した。その日S氏は、いつもより遅く帰宅した。理由は来客との食事で話しが弾んだためだ。 バタン。 疲れた体を自宅ガレージにとめた車のシートからやっとの思いで引き剥がし、ドアを閉めた。 玄関に明かりを確認し、ほっと心が和むのを感じる。 ガチャ。門を開け階段を昇る。 「おやっ」 深夜12時だというのに応接間、夫婦の寝室に明かりが灯っている。 カーテンの隙間からは、テレビのものと思われる光の反射が漏れている。 「なんだ、まだ起きているのか。そういや、明日は日曜だったな」 S氏はこれから取り交わすであろう子供との他愛のない会話に胸を膨らましポケットの鍵を探った。 「しまった。今朝家の鍵を玄関に置き忘れたんだ。まあいい、開けてもらうとするか」 ドンドン!ドンドン! 応接間まで聞こえるのを願ってドアをノックした。 ドンドン!ドンドン! ドンドン! 「・・・・・・」 応答がない。 しかたなく、庭を横切り応接間の引き戸の前に立った。 カーテンは閉ざされており中の様子をうかがう事はできない。 しかし、確かにテレビがついている。 ドンドン!ドンドン!! またしても応答がない。 ドンドン!ドンドン! ドンドン!ドンドン! 部屋の中で人の動く気配は全くない。 S氏は微かな不安を覚えた。 しかしこの時点での不安は後に沸き起こる事件とは全く異質のものであった。 次にS氏がとったのは電話だ。 まず、妻のケータイを呼び出す。 プルルルル・プルルルル・プルルルル・プルルルル・ プルルルル・プルルルル・プルルルル・プルルルル・ プルルルル・プルルルル・プルルルル・プルルルル・ 確かに鳴っている。 応接間からケータイの呼び出し音が響く。 だが、一向に受話器を取る気配がない。 今度は自宅の電話を呼び出す。 ピロピロピロ・ピロピロピロ・ピロピロピロ ピロピロピロ・ピロピロピロ・ピロピロピロ・ ピロピロピロ・ピロピロピロ・ピロピロピロ だめだ・・。 「よし、こうなったら2階に寝室に合図を送ろう」 S氏は庭に転がっていた愛犬のゴム製ボールを手につかむと寝室の窓めがけ勢い良く投げた。 ボールは、夜の闇の中どうやら命中したようだ。 ドン! それでも反応はない。 もう一度。また命中だ。 ドン! S氏はこれらの作業を繰り返し行った。時刻は12時40分を示していた・・。 つづく。 |